股関節外科

診察日時 毎週水曜日・木曜日
受付時間 午前8時30分~11時

診療内容

小児や成人の股関節疾患に対して、それぞれの患者さんの病状に応じた治療法を選択しながら診療を行い、手術療法においては可能な限り股関節を温存する手術を行っております。 以下に主な疾患別の手術療法について紹介します。

1. 変形性股関節症

変形性股関節症とは股関節を形成する寛骨臼と大腿骨頭の関節軟骨がすり減ってスムースな関節としての機能を果たせなくなった病態を言います。関節軟骨のすり減った状態により4つの病期(前・初期・進行期・末期)に分けられます。

A)前・初期股関節症

この時期は、変形が比較的軽い病期で関節軟骨がまだ残存しています。関節内病変の進行に伴って関節が不安定になり、関節軟骨が傷みやすくなるため、関節不安定性の改善を目的とした骨切り術などの関節温存手術が選択されます。日本人の変形性股関節症は寛骨臼形成不全に伴う二次性変形性股関節症が8割以上を占めるため、本邦では骨盤側の骨切り術が主に行われています.当科では現在最も安定した成績が示されている寛骨臼回転骨切り術を1987年より行ってきました。寛骨臼形成不全とは大腿骨頭を覆うべき屋根の部分(寛骨臼)がうまく発育しなかったため骨頭への被覆が不充分な状態を言います。そのため寛骨臼を球形に骨切りし、寛骨臼を少しずらして荷重のかかる部分の被覆を増やすことを目的とした手術です。術後成績として、90%以上の患者様が初回手術から10年間経過した後も痛み・関節機能が良好に維持されており、大変良好な成績が示されています。近年では更なる成績の向上を図るために、関節鏡視下に関節軟骨を観察して関節内処置を併用する場合があります。

B)進行期・末期股関節症

この時期は更に関節軟骨の磨耗が進んでいるため、多くの方で既に股関節に変形が認められます。この時期の手術として最も安定した治療効果を示しているのは人工関節置換術になります。しかし人工関節置換術は人工物であるため長期間経過するとゆるみなどの問題が生じます。人工関節周囲の骨が脆くなったり吸収されることにより、人工関節がぐらぐらになってしまうことがあります。そのため、進行期股関節症で比較的若い方には大腿骨外反骨切り術などの関節温存手術を行う場合もあります。

術前

大腿骨外反骨切り術後

術後4年

術前

人工股関節置換術後

2. 大腿骨頭壊死症

大腿骨頭壊死症とは大腿骨頭(大腿骨の頭)の骨が壊死(死んでしまう)を起こした状態で, 放っておくと徐々に骨が潰れ、股関節に痛みが出現してきます。原因ははっきりしていませんが、お酒をたくさん飲む方や他の疾患のため副腎皮質ホルモン剤を飲まざるを得ない方に発生することが多いことはわかっています。比較的若い方に多く生じるため、股関節の破壊が生じると日常生活や仕事(特に重労働)に支障をきたし困られる方が多いのが特徴です。そのため骨壊死の範囲が広範囲な場合には、骨の陥没を防止するための手術が必要となります。

A)大腿骨頭回転骨切り術・大腿骨彎曲内反骨切り術

骨の壊死範囲が広い方でも大腿骨の頭の他の部分が生き残っている場合には、大腿骨頭回転骨切り術や大腿骨弯曲内反骨切り術を行います。この手術は大腿骨の近位部で骨を切り、生き残っている部分を一番体重のかかる大事な部位に移動させる手術です。これを行うことによって大腿骨頭に広がる骨壊死領域の陥没を防止し関節機能の温存を計る事ができます。

術前

骨頭回転骨切り術後

術後8年

術前

大腿骨内反骨切り術後

B)人工骨頭・人工股関節置換術

もし既に大腿骨の頭が潰れてしまって関節の変形が生じた状態に陥った場合には人工関節置換術の適応になります。しかし、先ほどの変形性股関節症の患者様と比べて年令が若い人に多く生じるため、やはり人工関節のゆるみが問題になってきます。人工関節は一般的に活動的な方の場合に早くゆるむ傾向が認められるため注意が必要です。人工関節がゆるむと周りの骨を破壊してしまうため、人工関節を支える土台となる骨がしっかりしていないとたとえ再置換術を行ったとしてもあまり長持ちしません。そのため、このような若い患者様に対してできるだけ骨を温存することを目的に、大腿骨の近位端のみで固定するClione anchored replacement prosthesis (CARP-H system)という人工関節を使用することも治療の選択肢として用意しています。

CARP-H system

3. 股関節唇損傷

股関節の骨盤側の縁には関節唇という線維軟骨から成る組織が取り巻いており、関節を安定させる役割を担っています。この関節唇が何らかの影響で損傷を受けると関節唇の役割が果たせなくなり、関節の安定性が損なわれるとともに股関節痛の原因となり得ます。けがなどで損傷することもありますが、スポーツなど骨盤側と大腿骨側が接触を繰り返す病態(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が損傷に関与するとも言われています。当科ではMRI(放射状撮影)検査などで股関節唇損傷の診断を行い、明らかな寛骨臼形成不全のない股関節で、関節内注射やリハビリテーションなどの保存的治療が無効な場合に関節鏡視下手術を積極的に行っています。関節唇が損傷される経緯には未だ議論の余地がありますが、損傷の状態に応じて関節唇縫合術や関節唇部分切除術を行い、原因として大腿骨頭の形態異常が強く疑われる場合には一部骨切除を行って骨頭を球形に近づける処置なども行います。関節内病変に対しては手術治療を行いますが、股関節の機能である関節安定性を再獲得するためにはリハビリテーションが欠かせません。手術治療とリハビリテーションを両輪として股関節の痛みや機能の改善を目指すことが重要です。

損傷した関節唇

関節唇部分切除後 

関節唇縫合後