肩関節外科
肩腱板断裂
腱板は肩関節を安定させる働きを持っており、怪我やオーバーユース、加齢性変化などにより断裂します。症状としては肩を動かした時の痛みや夜間の痛み、肩の筋力の低下、腕が挙がらないなどですが、症状が全くないこともあります。注射やリハビリなどの保存治療を行っても痛みが続く場合は手術を行います。皮膚に約1 cmの傷を5, 6か所あけ、関節鏡というカメラを挿入してモニターで関節内を観察しながら行います。アンカーと呼ばれる糸の付いた特殊な器具を上腕骨に打ち込み、この糸で断裂した腱板を骨に縫い付けて修復します。断裂サイズが大きい場合は再断裂する確率が高いため、当院では肩後方の肩甲骨の部分に約4 cmの皮膚切開を追加し、腱板の筋肉を肩甲骨側から剥離して外側にスライドさせる方法を選択しています。また基礎研究を基に人工生体材料を補強材料とした腱板修復術を独自に考案し、臨床に応用しています。
反復性肩関節(亜)脱臼
肩関節の脱臼、亜脱臼を繰り返し、日常生活やスポーツ活動に支障がある場合に手術の適応になります。反復性脱臼では肩前下方の靱帯が関節から剥離していることが原因であることが多く、当院では腱板同様関節鏡視下に同靭帯の修復を行っています(鏡視下バンカート修復術)。具体的には剥がれた靭帯を元の位置に戻して、アンカーを骨に挿入して縫合します。従来の直視下手術に比べ、約1cmの傷が2, 3か所と低侵襲に行えることが特徴です。
特発性肩関節拘縮(肩関節周囲炎、凍結肩、いわゆる五十肩)
江戸時代より50歳以降に肩が痛くなることを五十肩と呼んでいました。現在では腱板断裂などその他の疾患が除外され、明らかな原因がなく肩の痛み・動きの制限が生じた状態を狭義の五十肩といい、肩関節拘縮、凍結肩などとも呼ばれます。以前から鎮痛剤の内服、ステロイドやヒアルロン酸の関節内注射、リハビリを中心とした保存加療が中心であり、効果に乏しい場合に関節鏡下に肥厚した関節包を解離する手術を行っていました。当院ではエコーガイド下に肩関節支配の神経ブロックを行って無痛状態とし、その後徒手的に肩関節包を破断させて拘縮を解除しています。これは外来にて日帰りで行える処置であり、夜間痛も劇的に改善する非常に満足度の高い方法です。
投球障害肩
野球肩に代表される投球障害肩は腱板損傷や関節唇損傷、肩関節不安定症といった肩関節内外の構造の破綻により生じることが多いですが、股関節や体幹、肩甲骨周囲などの固さ(タイトネス)や筋力不足が根底にある場合が多く、手術をしなくてもリハビリで全身の調整を行うことにより症状が改善され投球が可能となることがほとんどです。われわれは肩を痛める原因となっている器質的障害部位を特定するとともに、障害を生じるに至った原因もはっきりさせるため全身をくまなく診察しております。また最新技術を用いた投球動作解析も適宜行っております。当院では実際に野球経験のある医師が選手の気持ちに立った診療をしております。このため当院には学生のみならず、社会人やプロ野球選手を含めて幅広い選手層が来院されます。
変形性肩関節症
肩関節の表面を覆う関節軟骨が変性・摩耗し、徐々に変形してしまう病態を変形性肩関節症といい、疼痛や腫脹、可動域制限、関節水腫などをきたします。特に原因が明確でないものを一次性変形性肩関節症といい、外傷(骨折や脱臼など)や感染、上腕骨頭壊死など何らかの疾患・病態に続いて発症するものを二次性変形性肩関節症といいますが、特に二次性の中でも腱板断裂に続発するものを腱板断裂性関節症といいます。鎮痛剤や関節注射(ステロイド、ヒアルロン酸など)、リハビリテーションなどの保存療法が無効で、痛みや運動障害のために日常生活に支障がある場合、患者さんの状態に応じて滑膜切除術や人工骨頭置換術、解剖学的人工肩関節置換術などが検討されます。また腱板断裂性関節症の中でも、特に70歳以上でかつ100°以上腕が挙がらない患者さんには、リバース型人工肩関節置換術といった特殊な人工関節を挿入しています。
一次性変形性肩関節症
腱板断裂性関節症
人工骨頭置換術
人工肩関節置換術
リバース型人工肩関節置換術