足外科

広島大学整形外科では教室開講時の昭和32年に足の外科診療班による外来を開始しました。高齢化社会やスポーツの普及に伴い、「足・足関節」に問題を抱え病院を受診される患者さんは増えており、当科の「足・足関節」に関連する手術の件数も年々増加しています。
当科では変形性足関節症、外反母趾、扁平足障害、距骨骨軟骨損傷、足関節外側靭帯損傷、三角骨障害、足底腱膜炎、リウマチ足、腓骨筋腱脱臼、足根骨癒合症、強剛母趾、アキレス腱付着部症、先天性内反足などの疾患を中心に幅広く診療しています。手術治療では足関節鏡、後足部鏡を用いた手術を積極的に行っています。学術的な活動にも力を入れており、足の外科に関する臨床研究、基礎研究を日本国内や国際学会で数多く発表しています。

以下に「足・足関節」の代表的な疾患の概要を記します。

変形性足関節症

関節を構成する骨の表面には関節軟骨が存在しますが、この軟骨がすり減った状態と軟骨に隣接する軟骨下骨の退行性変化を含め変形性関節症といいます。足関節に発生する原因として、いわゆる「捻挫」を繰り返したことによる足関節の不安定性、足関節周辺骨折などの外傷、扁平足変形、足関節の感染などがあります。
起立時や歩行時に足関節の痛みを生じることが多く進行すると歩行に支障をきたします。足関節に腫れや進行度に応じた変形(足首が内側あるいは外側に曲がる)がみられます。画像検査として立位(立った状態)で足関節の単純X線撮影を行い変形の程度を評価します。治療として変形が軽度の場合には、足底挿板の装用、足関節への注射などを行います。変形が高度あるいは上記の治療にも関わらず痛みが強く日常生活に支障が出ている場合には手術治療を行います。当科では高齢者には変形の程度に応じて、脛骨骨切り術、足関節固定術、人工足関節置換術などを行っています。足関節固定術は関節破壊が高度な例を除き、足関節鏡を用い低侵襲な手術を行っています。
また関節全体が変性している進行期の変形性足関節症でも、比較的若年で活動性が高い場合には、Distraction arthroplastyという治療を行っています。これは関節鏡視下に距骨、脛骨天蓋(足関節を構成する骨)へ骨穿孔(骨からの出血を促す手技)を行った後、関節運動が可能な創外固定器を一定期間足関節に装着して関節の負荷を減じて組織修復を促すものです。

外反母趾

母趾(足の親ゆび)が外側に曲がる変形(外反)を示す疾患ですが、その変形は母趾だけでなく足全体に生じており、外反母趾の高度変形例では後述の扁平足を合併することも稀ではありません。女性に多く、加齢や履物(先の細いもの)が影響すると考えられています。症状には母趾の付け根の内側が隆起して痛む、外反した母趾に圧迫されて生じる第2趾の痛みや変形、足の裏にできた胼胝(タコ)による痛みなどがあります。画像検査として立位(立った状態)で足部の単純X線撮影を行い変形の詳細な評価を行います。
当科では変形が軽度の場合は靴の見直し、足趾の体操や足底挿板の装用による治療を行います。上記の保存治療を受けても症状が持続する場合は、骨切り術など手術治療を行います。

扁平足障害

扁平足は足の「アーチ」が低下し「土踏まず」が消失した状態です。症状がないことも多く、まずは足部の筋力訓練や装具治療を行います。成人では加齢や肥満などに伴う後脛骨筋腱(足のアーチを支える腱)の機能不全が主因といわれています。起立や歩行動作で足関節の内側に痛みが生じ、進行すると足関節の外側や足底部に痛みがでることもあります。診察では足の内くるぶし周囲の腫れや痛みを確認します。また片脚でつま先立ちができるかどうかは扁平足診断の一助になります。画像検査として立位(立った状態)で足部の単純X線を撮影し扁平足の進行度を評価します。
治療は変形が軽度な場合には足底挿板(アーチをサポートするインソールなど)の装用、足趾や後脛骨筋の運動療法などを行います。減量による足部への負荷軽減も有効です。当科では進行例に対しては変形の程度に応じて手術治療(腱移行術、骨切り術、外側支柱延長術、関節固定術など)を行い扁平足変形の矯正を行っています。

距骨骨軟骨損傷

距骨(足関節の土台となる骨)の関節軟骨と軟骨下骨が損傷した状態で、スポーツをしている若年の患者さんが多いですが、壮年から中年の方でも発症します。原因として足関節不安定性から生じる損傷部への微小外力や靭帯による病変部への牽引力などが考えられています。明らかな外傷が契機となり生じる場合と誘因なく徐々に症状が顕在化する場合があり、足関節の痛み、腫れ、可動域制限や引っかかり感などの症状がみられます。検査として足関節の単純X線撮影で損傷部を確認します。軟骨下骨の詳細な評価には単純CT検査、関節軟骨や靭帯などの評価にはMRI検査が有用です。
治療について、スポーツ休止などにより患部の安静を図ることで急性期の症状は軽減しますが、スポーツ活動の再開により再燃することも少なくありません。一度生じた距骨骨軟骨損傷は基本的に自然治癒することは少ないため、症状が続く場合やスポーツ活動への復帰を目指す場合は手術治療を選択することが多いです。当科では患者さんの年齢や損傷部の状態などに応じて骨穿孔術、骨軟骨片固定術、骨軟骨柱移植術、骨移植術を中心とした手術治療を行っています。

足関節外側靭帯損傷

足首を内側に捻ることで生じる足関節外側の靭帯損傷で、一般的には「捻挫」として知られる疾患です。小児の場合は靭帯付着部の剥離骨折が生じることが多いです。足関節外側周囲の疼痛、腫脹や皮下出血が生じます。画像検査として単純X線で骨折の有無、超音波エコーで損傷靭帯や剥離骨片の評価を行います。
受傷直後の急性期は患部の安静、冷却、圧迫、挙上(RICE)が重要です。初回の靭帯損傷の場合はギプス固定を約1週間行った後、足関節サポーターへ変更して関節可動域訓練や腓骨筋腱などに対する運動療法を行います。
足関節の不安定性(ゆるみ)が強く、捻挫を繰り返す場合などは手術治療を行います。当科では遺残靭帯が利用できる状態であれば靭帯修復術(損傷した靭帯を解剖学的に正しい位置へ縫着する)を行いますが、足関節鏡を使用するため皮膚切開も小さく低侵襲な手術が可能です。遺残靭帯が消失している場合などでは、靭帯再建術(自家ハムストリング腱を使用して靭帯を再建する方法)を行います。

足関節後方インピンジメント症候群

距骨の後方にある三角骨やStieda結節が原因となり、距骨後方で滑膜などが炎症を起こして足関節底屈位(足首を足裏側に曲げた状態)で足関節後方の疼痛が生じます。足関節底屈位での負荷が加わりやすい、サッカー選手やバレエダンサーに多くみられます。隣接する長母趾屈筋腱(足の親指を曲げる腱)に腱鞘滑膜炎が生じると母趾の曲げにくさ、母趾底屈筋力の低下が生じることもあります。
治療では、まず運動の休止、距骨後方への注射、理学療法などを行い、症状の改善を目指します。スポーツに復帰すると疼痛が再燃する、または日常生活動作でも疼痛がみられる場合などで手術治療を検討します。当科では後足部内視鏡を使用した低侵襲な方法で三角骨、Stieda結節、炎症性滑膜の切除を行っています。